風の旅人 第21号~第24号 特集内容

vol.21 2006年8月

定価 ¥1,200(税込)
全150ページ 30×23cm

【 表紙・裏表紙 】

ワ−ナー・ビショッフ

【 写真 】

  • AFTER THE WASTE / 大戦後のヨーロッパ

    photos / ワ−ナー・ビショッフ

  • LIFE IN MEMORY / 殺戮の島、沖縄

    photos・text / 江成常夫

  • SPIRITUAL LIFE / いのちの宇宙

    photos / 石元泰博

  • NIRVANA / 聖なる河岸

    photos・text / 野町和嘉

  • THE LAST WILL / パキスタン大地震−破壊と再生

    photos・text / 船尾修

  • 円還 / 書

    御園 平

【 連載 】

  • 見ようとする意思

    text / 小栗康平

  • ニヒリズムを超えて

    text / 佐伯啓思

  • 風土への思い

    text / 酒井健

  • 斜線の旅

    text / 管啓次郎

  • いまここ、あるいは、ここでないどこか

    text / 田口ランディ

  • 何が現実か

    text / 日髙敏隆

  • 現代生活のなかの絵画

    text / 古谷利裕

  • 時への視線

    text / 保坂和志

  • 暮らしと信仰

    text / 前田英樹

  • 今、ここから全ての場所へ

    text / 茂木健一郎

  • 大いなる錯覚と、ヒトのしあわせ

    text / 養老孟司

【 NOW-HERE-EVERYWHERE 】

  • 結末のない旅

    photos・text / 関野吉晴

  • 見える現実、見えない現実

    text / 武田徹

  • 寄す想い

    photos・text / 早坂類

     

     8月というのは、お盆があり、原爆が投下され、太平洋戦争が終わった時でもあり、魂のことに敏感にならざるを得ない時です。
     第二次世界大戦が終わった時のヨーロッパ世界から、沖縄の戦跡へと続く『風の旅人』の8月号は、1945年に時計をリセットしたいという思いで制作されています。
     あの大戦で、近代西欧の思考特性の様々な矛盾が噴出した。にもかかわらず、その後、日本は、学問的に細部の修正は多少あるのかもしれませんが、生活の幹線部分においては、その思考特性をただ繰り返し、それらの断片が私たちの日常の表層に堆積しているように感じられます。
     そして、長期ではなく短期の視点でモノゴトを推進する「論理」が、日本国中を侵攻していく。
     「論理」の全てが悪いというのではなく、肌感覚を強引に従属させるような「論理」があまりにも多すぎるように感じます。
     それらを今一度見直し、生きていくうえで私たちが本当に大切にすべきものが何であるか、少しでも考えるきっかけとなれば幸いです。

    雑誌『風の旅人』編集長 佐伯 剛

     

 

vol.22 2006年10月

定価 ¥1,200(税込)
全146ページ 30×23cm

 

 

【 表紙 】

ハリー・グリエール

【 写真 】

  • PRIMARY PLACE / 鎮守の森

    photos / 水越武

  • REMEMBRANCE OF BIRTH / 伊勢神宮

    photos / 石元泰博

  • CURRENT OF THE CITY / 東京

    photos / ハリー・グリエール

  • NOSTALGIA / 日本のまち

    photos / 高梨豊

  • PEOPLE TIME

    photos / 小松健一

  • TIME AND SPACE / 東京、どこでもないどこか

    photos・text / 中根静男

  • 万葉集 / 書

    御園 平

【 連載 】

  • 見ようとする意思

    text / 小栗康平

  • ニヒリズムを超えて

    text / 佐伯啓思

  • 風土への思い

    text / 酒井健

  • 斜線の旅

    text / 管啓次郎

  • いまここ、あるいは、ここでないどこか

    text / 田口ランディ

  • 何が現実か

    text / 日髙敏隆

  • 現代生活のなかの絵画

    text / 古谷利裕

  • 時への視線

    text / 保坂和志

  • 暮らしと信仰

    text / 前田英樹

  • 今、ここから全ての場所へ

    text / 茂木健一郎

  • 大いなる錯覚と、ヒトのしあわせ

    text / 養老孟司

【 NOW-HERE-EVERYWHERE 】

  • 結末のない旅

    photos・text / 関野吉晴

  • 見える現実、見えない現実

    text / 武田徹

  • 日本の鬼 鬼神のこころ

    photos・text / 宗形慧

  • 暴走の記憶

 

伊勢神宮は20年に1度、新しく作り直され、日本の都市も、ヨーロッパの都市のように過去の状態を維持することを優先するのではなく、常に新しくなるダイナミズムのなかにあります。
 目に見える外観の姿形は朽ち果ててゆく宿命を逃れることができないから、それに執着しない。私たち日本人の意識の深層には、そうした世界観が脈々と受け継がれているような気がします。
 そうした世界観は、生き生きと循環するものとして世界を捉えることのうえに成り立っており、それゆえ伊勢神宮などにおいては、姿形を解体した後、その木材を新たに生かすことが、とても重視されています。
 しかし残念ながら今日の社会においては、次々と解体して新しくしていくことのみに視点がおかれ、その状況分析ばかりが行われています。
 変化することは自然の摂理ですが、外観がどれだけ変化しても変わらないものがあります。そして、それは、目に見えにくいものです。目に見えにくいけれど確かに存在していて、それがあるからこそ、モノゴトの関係性が健全に保たれ、世界はバランス良く循環していく。
 そうした関係性を司る力こそが「いのち」であり、その「いのち」に目を配り、気を配り、心を配りさえすれば、たとえ混沌のなかにあっても新たな視界を得て、ちがう景色が見えてくるのではないかと思います。
 「風の旅人」第22号の特集、SIGN OF LIFE で、古いものに新しいものが重なって響き合う、心の旅をお楽しみいただければ幸いです。

 雑誌『風の旅人』編集長 佐伯 剛

 



vol.23 2006年12月

定価 ¥1,200(税込)
全150ページ 30×23cm

 

 

【 表紙 】

松井良寛

【 写真 】

  • GREAT MOUNTAIN / 富士山

    photos・text / クリス・スティール=パーキンス

  • SPIRITUAL HOME / 里山

    photos・text / 今森光彦

  • DEAR HEART / 友・家族

    photos・text / 松井良寛

  • FREE WILL / 猫

    photos・text / 津田明人

  • BELIEF IN NATURE / 国東半島

    photos・text / 船尾修

【 連載 】

  • 神宝から民藝へ

    text / 前田英樹

  • 夢はめぐりて − 信州の山々、南海の島々

    text / 酒井健

  • 見えないけれどそこにいる、かれら

    text / 管啓次郎

  • キャラクターの向こう側にあるものへ

    text / 古谷利裕

  • 「退屈の時代」の政治

    text / 佐伯啓思

  • 心と命

    text / 日髙敏隆

  • いのちと心

    text / 養老孟司

  • 三をめぐる冒険・宇佐八幡の謎

    text / 田口ランディ

  • 晩い春の旅、断章6

    text / 川田順造

  • 近代化が低下させた人間力

    text / 甲野善紀

  • 一元的社会の安心と不安

    text / 小栗康平

  • 人間の終焉

    text / 保坂和志

  • 地球賛歌

    text / 茂木健一郎

【 NOW-HERE-EVERYWHERE 】

  • 正月の来訪神・歳神様
    ナマハゲ アマハゲ スネカ

    photos・text / 宗形慧

  • 皮なめし工場での体験 7

    photos・text / 関野吉晴

  • 機械と人間を隔てるもの

    text / 武田徹

  • 感覚の停止と、大量殺人

    text / 森達也

     

     

    私たち日本人の感受性は、日本の風土によって育まれました。また、同じ日本でも、山里、海岸、都市などによって身体的感覚は異なり、生活環境も異なります。
     しかし、今日の社会は、誰にでも当てはまるように平均化した幸福のイメージを、地方特性に関係なく浸透させようとする力が働きます。
     世界を覆い尽くすグローバリゼーションもその流れのなかにあるのでしょう。
     その結果、私たちは、私たちの幸福感や身体的感覚すらも、生身のものとして感じるのではなく、一種のバーチャルな現象として、共有を強いられています。
     そのプロセスのなかで、自分に固有の生の手応えを喪失していきます。

     しかし、実際には一つのモノゴトが成立する時、そこに無数のモノゴトの関係性が生じており、その関係性は、同じものがありません。その関係性の総体こそが、私たち一人一人に固有の生命なのではないかと思います。
     バーチャルに与えられた価値観ではなく、自分と、自分を取り囲む物の関係に目を向け、その手応えのなかで、自分の生のリアリティを確認する。自分に深く影響を与えている関係性のなかには、家族や友人や恩師だけでなく、この国の歴史文化や風土までも含まれるでしょう。

     「風の旅人」第23号の特集、OWN LIFE で、自分の生の営みを構成する様々な関係性へと思いをめぐらし、心の旅を楽しんでいただければ幸いです。

    雑誌『風の旅人』編集長 佐伯 剛

     

     

 

vol.24 2007年2月

定価 ¥1,200(税込)
全150ページ 30×23cm

【 表紙・裏表紙 】

齋藤亮一

【 写真 】

  • HOLY LIFE / チベット

    photos・text / 呂楠
    / Magnum photos Tokyo

  • LIFE IN DEATH / 生と死を育む海

    photos・text / 中村征夫

  • OUR BLESSING / 日本・収穫と食

    photos・text / 大橋 弘

  • FINE LINK / 湿原の生命

    photos・text / 山下大明

  • SALT OF LIFE / キューバ

    photos・text / 齋藤亮一

【 連載 】

  • 現実と幸福

    text / 養老孟司

  • 幸福とは何か?

    text / 日髙敏隆

  • 何を信じて生きるのか

    text / 酒井健

  • 他力であること

    text / 前田英樹

  • 「世界写真」について

    text / 管啓次郎

  • スピリチュアルという怪物

    text / 田口ランディ

  • 故郷の喪失

    text / 佐伯啓思

  • 皮なめし工場での体験 −最終回−

    photos・text / 関野吉晴

  • 晩い春の旅

    text / 川田順造

  • 衆生本来仏なり

    text / 甲野善紀

  • 無感覚の罪

    text / 森達也

  • 「動き」と「眼差し」と、この時代

    text / 小栗康平

  • 虚構の人物と共に長い時間を過ごすこと

    text / 古谷利裕

  • “溜め”のない社会の歪

    text / 保坂和志

  • ほんの小さなことの中に

    text / 茂木健一郎

     


     現代社会は、「死」や「悲しみ」や「苦痛」を遠ざける方向に発展してきました。
     そして、人間に都合の良い部分だけを抜き出した「物」を堆く積みあげることが豊かさであるかのような広告やPRが氾濫しています。
     しかし、自然界に目を向ければ、「死」と「生」、「悲しみ」や「苦痛」と「喜び」は裏表一体の関係であることがわかります。
     自然界においては、「死」の厚みが、豊かな生を育んでいます。それゆえ、自然界から糧を得ているという感覚を備えていたかつての人間は、「死」が「生」を育むことを知り、それがゆえに「死」に対する厳粛な心構えを持ち得たのだと思います。
     自然を傍に感じながら生きていれば、モノゴトが一巡するたびに、生と死(喜びと悲しみ)が一体であることが感じられる。その一巡を厚く積み重ねることが円熟であり、それこそが本当の豊かさであると知ることができる。
     人間生活において、たとえ自然を傍に感じられない環境になっていても、困難さや悲しみを厚く積み重ねることで、生の喜びが一層増すことがあります。そして、人間の都合でどちらか一方を遠ざけると、結果的に両方を遠ざけてしまうように思われます。
     死の実感もなければ生の実感もなく、痛みも弱ければ喜びも弱い営み。それを豊かさだとみなし、そこに向かって努力することをけしかけられる今日の大量消費社会。
     「風の旅人」第24号の特集 ROUND of LIFE において、今日の大量消費社会で見失われがちな、「生」と「死」、「喜び」と「悲しみ」が一体化した世界をお伝えできればと思います。

    雑誌『風の旅人』編集長 佐伯 剛