Tokyo View「東京模様」 鬼海弘雄写真集

 800部限定。残数、30冊ほどです。(2023年1月13日現在) 

  浅草のポートレート写真などで世界的に知られる鬼海弘雄さんの写真集。

 鬼海弘雄さんは、2020年10月19日、75歳でご逝去されました。

 デジタルカメラ全盛の時代、フィルムカメラと、プリント作業を徹底する鬼海さんは、シャッターを切るのも、プリントを焼くのも、一枚一枚を、とても大事にします。写真には、撮らずに観察し続ける時間、プリント作業を行わずに思考を重ねる時間も流れ込んでいるからです。

 この写真集は、鬼海さんが、ハッセルブラッドで40年以上にわたって撮り続けてきた東京の町街角の写真が120点掲載されています。(132ページ)。

 一枚一枚の写真を克明に見られるように、鬼海さんのこれまでの写真集で一番大きな写真集になります。サイズは、縦365mm×横297mmで、ほぼA3サイズに近い超大型写真集となります。



*鬼海弘雄さんのプリント独特のグレーの階調の豊かさを再現する為、印刷は、印刷の編点が微細な高精細印刷機で行っています。その為、細部の表現力が向上します。


鬼海弘雄写真集「TOKYO VIEW」(限定800部)をご希望の方は、下記、フォーマットよりお申し込みください。

(お申し込みいただいた際、自動返信メールはございません。後日、担当者から御連絡致します。)

価格 1冊 ¥13,000円(税込み・発送代込み)

 

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読者の感想

コメント: 18
  • #18

    佐伯剛 (火曜日, 17 5月 2016 14:49)

    メールでいただいた感想 第3回目
    ・注文していた鬼海弘雄さんの写真集が届いた。全てモノクロームの写真。品のある装幀、紙の上質感、高精度印刷の濃密なトーン、優れたデザイン。一見「静か」な写真。東京の「何気ない」風景。何回もページをめくることになる写真集だと思う。
    ・この写真集を開いたその場所だけ違う空間になってしまう、そんな力があるすばらしい作品集。
    堪能させて頂きました。まっすぐなポートレートとはまた別で、 雄弁に物語る写真の数々に圧倒されてしまいました。
    ・届いてから毎日パラパラと眺め、ニヤニヤしております。今回の写真集は圧巻です。本当に素晴らしい。時間をかけてここまで追い込んだ、鬼海さんと佐伯さんに心よりの敬意と感謝申し上げます。
    ・銀塩写真を観ること、上質な印刷物を観ること、どちらも生きていて良かったと感じることのひとつです。大抵、写真集にはがっかりすることが多いのですが、このたびの鬼頭さんの作品集には、何にも捉われることなく、すっとその世界観にひきこまれ、雰囲気に流されない奇跡的なほどに豊かな階調に、魅入ってしまいました。
    ・よい作品集は、作家のスピリットを伝え、オリジナルも観てみたいという尽きない好奇心を掻き立てます。よいお仕事をありがとうございました。
    ・これまでも鬼海さんの写真集やエッセイ集はすべて手にしてきました。そのうえでの感想ですが、「Tokyo View」はプリントの品質の高さ、手作り感のある装丁といい手に取る者にとって最も嬉しい作品集に仕上がったなあと感謝しております。

  • #17

    板谷隆義 (水曜日, 11 5月 2016 23:22)

    すごい写真集をありがとうございました。

    正直に告白しますと、
    僕にはこの写真集をまだうまく消化できません。
    ”なんかすごい!”
    そう思えるのですが、何がどうすごいのかがうまく言葉にできません。

    写真一つ一つはすごく人間くさくて、生活感がみられるのに、
    一人も人間が出てこない。
    時間が止まったような、不思議な感覚はあるのですが、
    全く止まっている様でもない。
    写真の中にユーモアを感じるのですが、
    奥底にヒヤっとするものが気のせいかある様な・・・

    たとえが悪いかもしれませんが、
    アニメ映画「千と千尋の神隠し」のオープニングで、
    主人公の千尋が、異次元の世界に迷い込んでしまいますが、
    そんな世界に似ているような。

    今、「神隠し」という言葉が出てきましたが、
    まさに、急にみんな神隠しに遭った、
    そんな世界に無理矢理放り込まれた、そんな感じです。

    ま、こんなたとえ方しかできないのが歯がゆいところです。
    もう少し、時間をかけて繰り返しゆっくりと味わってみたいと思います。
    だけど、何回も繰り返し眺めている間に、わかってくるのではないかと思います。
    ーーーーーーーーーーーーーー
    何か、あまりうまく感想が言えなくてすみません。

    もし、大型プリントを考えるなら、僕は、
    P.29 投げられたボール
    P.43 作法の良い猫
    P.124 「スカイツリー」
    P.125 海の中の駅
    このあたりが好きです。

  • #16

    川崎きよみ (月曜日, 09 5月 2016 23:45)

    Tokyo view、
    素晴らしい写真集を、有り難うございました。
    手元に届いてから毎夜、ページを開いていますが、私はここで目にする「扉と窓」に脱帽しています

    建物の中にある開口部、入り口、出口としての「扉」、そして「窓」、が
    どの写真にも実にバランス良く取り込まれている事を強く感じています。

    日常、誰もが目にしている「扉と窓」。
    そこにある空気感が
    写真を見る者の目を釘透けにするとともに
    鬼海氏が、「扉と窓」のあるその風景を誰よりも楽しんでいる様子を勝手に想像しています。

    立て付けの悪そうな扉
    今にも外れそうな窓、
    決してそれらは主役には、なりませんが、

    その、回りにある生活の風景が、
    その存在の価値を確かなモノにしていますし、
    相互が調和か違和感か
    考えながらページをめくると楽しくて時間を忘れてしまいます。

  • #15

    松本晴子 (火曜日, 03 5月 2016 20:06)

    作品を見ていて、そのどれもが裏道の、裏通りの、振り返らないと気付けない裏側の目立たない表情ばかりなのに、なんでこんなに温まるのだろうかと、考えてばかりでした。ひとつ気づいたこと。それはこの東京で、表舞台である意味必死に、精一杯生きている主人公が、そのエネルギーを脱いでこの場に息づく、素のままになる帰り場所を、愛おしく感じている写真家さんの想いがあるからなのかな〜。それはいまこの時を人間が生きていくことへの、おおいなる肯定というか。。。
    折にふれ、開きたくなる作品集です。

  • #14

    佐伯剛 (月曜日, 02 5月 2016 11:44)

    (メールでいただいたコメントですー第2回)
    ・こだわり抜いた印刷、シンプル且つ品格に溢れた装丁。そして、何よりも40年という時間をかけて熟成させてきた写真の普遍性の凄みに只々圧倒されるばかりです。稀有な写真集を有難うございました。
    ・クオリティの高さに驚いています。紙質が非常に高級感があり、写真集というより本当にプリントに近い印象です。
    ・これまで鬼海さんの街の写真集はここまで版の大きいものがなかったのではないかと記憶しています。またキャプションも新鮮で、それによって細部まで見られるようなしかけがあって、ポートレイトの作品集と同じように長時間何度も見ていられる作品になっていると思います。
    ・作品、印刷、装丁、どれも素晴らしいクオリティーですね。人が写っていないのに人々の生活をつきない興味が沸いて引き込まれます。
    ・素晴らしい.全てプリントのようなクオリティだ.。嬉しい.
    ・本当に印刷か!と思うような階調感に驚きました。

  • #13

    山田 庄司 (月曜日, 02 5月 2016 11:09)

    待ちに待った写真集が届いた。鬼海弘雄さんの『Tokyo View』 何とも言えず心地いい写真。
    紙の色、厚み、ページの大きさ、ゆっくりとゆっくりと時間を掛けてページをめくる。こんなにゆっくり見るのは久しぶりの事。
    今までにない印刷のクオリティー。
    もう一度、カメラ出してこようかなあ、ゴールデンウイークに!

  • #12

    酒井進吾 (月曜日, 02 5月 2016 00:03)

    ページをめくるほどにどんどんと自分の身体が街を彷徨いだしました。ビル・衣類・看板・・それは人間が作り出した森なのかもしれないなと思いました。人間の中の複雑さがゆえに建物による空間の断然が悲しいくらいに必要なのかもしれない。その中で人間はヤモリのように暮らしている。そんな気持ちが湧いてきました。自分の中の「生きている」力がくすぶっているような不思議な感覚です。大きな声で「おーい!」と叫びたくなる。素晴らしい写真集です。ありがとうございました。

  • #11

    大橋一彦 (日曜日, 01 5月 2016 11:20)

    鬼海弘雄の写真集、Tokyo Viewが届きました。掲載されている写真はほとんど今までの写真集で発表済みのものですが、プリントもきれいで、大きな写真になっているのでうれしいです。
    一見、何の変哲もない風景写真に魅せられる不思議を味わいました。つくづく、意味や教訓を越えた所に行くことの大事さを教えてくれた写真集です。

  • #10

    北 義昭 (日曜日, 01 5月 2016 09:20)

    素晴らしいです。
    開いた瞬間、目に飛び込んできた質感。
    濃密なグラデーション。
    匂いや、湿度まで感じます。
    僕にとって特別な一冊になりました。

  • #9

    木井健一 (土曜日, 30 4月 2016 16:55)

    人に伝えねばならぬとしたら、…………
    ただ一言「君自身が実物を観て見るしか仕方ないよ」と言うほかはない。

  • #8

    照屋 (土曜日, 30 4月 2016 16:00)

    写真の美しさもさることながら、前田英樹さんの文章にも唸らせられました。

  • #7

    佐伯剛 (土曜日, 30 4月 2016 11:43)

    以下、4/29〜4/30 午前中、メールでいただいたメッセージです。
    ●妥協を、許さない素晴らしい写真集が、手元に届きました。さすがです!観るほどに、作品の存在感に不思議と引き込まれます。
    ●デザイン、印刷も含めてすばらしい写真集です。ありがとうございました。
    ●手塩にかけて磨き出した逸品、見事なものです。紙とインクの関係など私にはなにもわかりませんが、なんとも言えない特別な、白と黒とのトーンが静寂を深めて、鬼海さんの作品世界を現出させているように思えます。人を真っ直ぐに撮ることと、人の暮らす壁を撮ることも、撮影としてはいっしょ。不思議な人ですね。
    ●本の大きさ、手ざわり、写真を取り巻くフレームの目を疲れさせない微妙な色合 い、どれも素晴らしいです。もちろん、写真も。そして一枚一枚につけられたタイトルも。
    「生きるっていうのはこういうことだよ」と肯定されている気がします。
    ●素晴らしい写真集です。ありがとうございます。写真はもちろんのこと、細部までこだわられた装丁もお見事です。
    ●すばらしい印刷の写真集で驚いています。長いこと待ったかいがありました。ありがとうございました。
    ●楽しみに待っていた、鬼海弘雄氏の写真集が届きました。どうも有難うございます。東京人である私がみなれていた光景を作品の中で拝見した途端に胸がざわつき始めました。なにも感じなかった普通の光景が、見事な作品になり人の心を動かす、鬼海氏の感性は素晴らしいですね。感嘆の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。
    ●本日、写真集受け取りました。立派な写真集ですね。知っている場所や、笑ってしまう写真ありで、見ていて楽しいです。有り難うございました。
    ●写真集 受け取りました。ありがとうございます 私は詩 絵画 彫刻など心に入ってくる作品に出会えた時呻いている自分に気ずくのですがこの写真集もそうでした 風の旅人 さんのご縁に感謝致します。
    ●すごい、いいです。ほんと、いいですね。最初、紙が黄色過ぎるかと思ったけど、何ページかめくると気にならなくなり、そのうちに、この色じゃないとこのトーンとこれらの写真が持っているものは表現できないと思いました。時間がかかったのも頷けます。表紙もいいです。いままで出ていて我が家にある他の鬼海さんの写真集たちとは次元が違います。よいものをつくってくださり、ありがとうございます。大切にします。
    ●すばらしい出来にびっくりです。ありがとうございました。
    ●心にくるものがありましたこんな写真集が手元にあることが幸せです。ありがとうございました
    ●今日到着しました。待ち焦がれていたので素直に嬉しい。コントラストは高すぎず低すぎず絶妙なトーン。光沢紙でありながらいやらしいテカテカでなく、若干黄味がかった紙に印刷された写真は、印刷物ではなく銀塩バライタ印画紙にプリントしたような、そのまま額装してもいいような質の高さ。風の旅人の編集長、佐伯さんが印刷の質にこだわりぬいたというのがよくわかる。
    それにしてもデカいです。なので一層写真の質が高まってる気がする。
    ●身震いする程の仕上がりです。今までの写真集とはレベルが違いすぎます。素晴らしい写真集を出して頂き、ありがとうございます。
    ●感動ものです。黒といい調子といい、オリジナルプリントを見ているようです。ありがとうございます!オリジナルプリントも待ち遠しい!
    ●すばらしい写真とプリントです!生写真、要らなくなるくらい。生写真も注目しますm(__)m
    ●何度もやり直して、ここに辿りついたご苦労が分かります。階調がここまで印刷で出るのかと、感心しました。コントラストを高めに印刷して見栄えをよくした、これまでの写真集と全然違いますね。
    --

  • #6

    平 寿夫 (土曜日, 30 4月 2016 00:23)

    今回の写真集は、開いた瞬間、背筋が凍りつくような感覚を覚えました。
    平べったい印刷ではなく、そこにはオリジナルプリントでしか見れなかったような、立体感があり写真に奥行きが出ており、一見の価値のある素晴らしい写真集です。
    鬼海さんの写された風景が、感情移入されたモノクロームのイメージとなって、我々の目の前に現出してきます。鬼海さんの写真の世界を、見るものにも体現させてくれるものです。
    素晴らしい写真集をありがとうございました。

  • #5

    安藤喜治 (土曜日, 30 4月 2016 00:15)

    本日(29日)午前中、届きました。バラシてすべてを額装する?すぐに保存する?せめて手袋をして観る?素晴らしい本です。ありがとうございます。

  • #4

    氏家国浩 (金曜日, 29 4月 2016 21:07)

    久々に鳥肌が立つ仕上がりの本に出会いました。鬼海弘雄さんの作品の持つ世界観を再確認致しました。それは言葉でも絵でもなく、紛れもなく写真なのだと言うこと。閉塞感など及ばぬ、我々の平易な時間がすべてだと言うこと。鬼海さんは惜しみなく、それを写しとめたのだろう。ありがとうございました。

  • #3

    林由紀子 (金曜日, 29 4月 2016 20:21)

    鬼海弘雄さんのモノクロームのスナップショット。画面の何処にも人がいないのに濃密な人の気配が満ちている。真昼の都市の亡霊たちが静かに歩いているような。窓から見ているあの猫も亡霊かもしれない。

  • #2

    藤井本子 (金曜日, 29 4月 2016 16:39)

    待ちわびた鬼海弘雄さんの写真集、落掌致しました。素晴らしいですね。美しい写真、装幀、作品毎のタイトルも素敵。これから何回も何回も繰り返しページをめくることになると思います。こういう写真集を作って下さってありがとうございました。
    オリジナルプリントの詳細は改めてご案内をいただけるのでしょうか?

  • #1

    佐伯剛 (金曜日, 29 4月 2016 16:11)

    鬼海弘雄さんの新作写真集「Tokyo View」をご覧いただいた上での感想を、ぜひ、お寄せください。


間(あはひ)の妙を伝える鬼海弘雄さんの写真

風の旅人 編集長 佐伯剛

 鬼海弘雄さんの写真を見ると、”間(あはひ)”の世界だなあといつも思います。

 わかるようでわからないところがある。でもわかりそうな気がする。写真を通して、自分が生きている現実とは別の時間の中に入る。それでいて、こちら側の現実に踏みとどまる力がある。鬼海さんの写真は、そういうものです。
 もともと写真というのは、世界との媒介です。
 媒介というのは、こちらとあちらをむすぶものであり、同時に、こちらとあちらを分ける境界でもあります。つまり、あはひ(間)に存在するもの。
 だから、写真家の能力というのは、そういう媒介者としての能力であり、魂が、こちらの現実に居付きすぎてもダメだし、あちらに完全に行ってしまってもダメです。
 そのギリギリの境で踏みとどまらなければなりません。
 ”あちら”というのは、なにも幽霊のいるところとは限りません。人間の理性では簡単に解明されない世界のことであり、”自然”とか”宇宙”の摂理もそうです。どんなに科学が発展しても、生命それ自体を作り出す事や、宇宙の涯の向こうの解明はできていないのですから、それらも、人間にとって、あちらです。
 もっと身近なところでは、自分の身体すら自分の意識を超えたところで動いていますので、自分と直に接しているところなのに、あちらです。
 現実社会の中の仕組みに縛られて生きていると、そこで出会う多くの物事は、自分がよく知っているこちら側の理屈で意味付けられて処理されてしまいがちです。
 なのに、敢えて表現行為によって、こちらの側の権威におもねいたり、こちら側の仕組みに寄り添ったり、こちら側の現実に反発するポーズをファッションにしたりするものも多くあります。こちら側の現実に媚びた方が、出世もしやすいし、人気も出やすいし、うまくいけばお金儲けもできるからです。
 けっきょく、こちらの現実の中での表現の価値は、こちらの現実の中での勝ち負けにすぎず、あちら側の現実からすれば、どうでもいいものかもしれません。
 ちなみに、50年後の世界も、こちら側の現実から予測できない世界なので、あちら側の現実です。
 自分が生きていない未来のことはどうでもいいと開き直って、今この瞬間のこちら側の理屈だけが大事だと言い切ることができればいいのですが、今この瞬間の生にしても、こちら側の計画どおりにはいかないことも多いのです。
 そして、もし、こちら側の計画通りにいかないことが無価値なことだと決めつけられてしまうと、多くの人間にとって救いようのない人生となってしまいます。
 こちら側の計画通りでないけれど、面白いことはいっぱいある。むしろ、こちら側の計画通りのものは、見え透いていてつまらないし、退屈だ。そういう思いは、誰もが少しは持っている筈で、その思いというのは、自分ではわかっていないけれど、とても重要な思いかもしれません。
 鬼海さんは、多くの人と同じように、こちら側の現実でうまくいかないことをたくさん知っていて、その不満を持っており、いつもボヤいています。
 しかし、多くの人と少し違うのは、こちら側の現実の不満を、こちら側の現実の答えで解消しようとしないことです。こちら側の現実の答えというのは、たとえば、人に評価されるとか、賞をとるとか、お金を儲けるとか。こちら側の現実において欠けたものを、こちら側の現実の断片で埋めようとしても、埋まらないことを悟っているのでしょう。
 だから鬼海さんは、こちら側の現実の、目的地へと最短距離で行ける整備された道など決して通らず、敢えて脇にそれていき、迷路へと入っていきます。
 こちら側の現実から脇へと逸れてしまうと、自分を権威付けるようなものは何もないわけですから無力なものです。しかし、そのことによって特別な視点を獲得します。
 まず、こちら側の現実を、脇から見られるということです。
 そして、もう一つ、このことがとても大事なことですが、こちら側の現実が生きるうえで不要だとみなしてしまっているものを、再確認する眼差しを得ます。
 たとえば妙なもの、つまり説明不可能な気配というようなものは、こちら側の現実では何の役に立つかわからないので、大事にされません。
 しかし、人間付き合いなどにおいても、妙に気が合うとか、なんでもない場所なのに妙に落ち着く場所というものがあり、そういうものは、理由が不明確で、こちら側の現実の中で評価付けができないものだけど、けっこう大事なのです。
 それは誰もが生理的(身体的)に感じている真理です。
 頭では理解できていないけれど、頭にとって”あちら側”の存在である身体が、何かしら原因があって、それを必要としているということでしょう。
 こちら側の計画や計算だけで人と付き合ったりカレンダーのスケジュールを埋めていくと、誰しも苦しくなるのではないでしょうか。
 私たちはきっと、こちら側だけでなく、あちら側も必要なのです。理由なんかわからなくてもいい。あちら側の何かを少しでも感じさせてくれるものが必要なのです。
 そして、それを具体的に感じさせてくれる人は、こちら側の現実から脇に外れていき、あちら側の現実の妙なるものに注意を払っている人です。
 その人がいなけれど、多くの人にとって、あちら側の現実は不過視のままです。
 鬼海さんの写真を見る人は、日常とはまったく違う時間の中に身を置く事になります。
 そして、こちら側の現実の意義や意味や価値観が揃っていなくても、違う形での整え方があるということを何となく感じられます。無意識のうちに囚われてしまっている「こちら側の現実」という枠組みから自由になり、その束縛から解放されるわけです。
 こちら側の現実において、壁の前で行き詰まった時には、その壁を乗りこえようと熱くなることが多いのですが、ふと冷静になって、行き先を変える選択肢もあるのではないかと考える間(あはひ)ができます。
 この緩みという間(あはひ)は、とても大事で、建築における建材でも、杓子定規で作ると震動などを吸収できず、衝撃をモロに受けて、すぐにガタガタになります。
 行き先を変えることもありだという間(あはひ)は、視野狭窄に陥っている自分を解放するわけで、自分の先入観や固定観念を棄てて世界と向き合うきっかけになります。
 そして、固定観念という決まった答えを捨てることは、迷路に入ることです。
 迷路に入ることに不安を覚える人もいますが、馴れてしまえば意外と楽しいもので、それは何故かというと、迷うことが無ければ気付けなかったことにも気付くわけで、その瞬間、世界がぐんと広がることが体感できるからでしょう。
 迷路の中で様々なことに気づくこと。それは、世界について、人生について、悟ること。その悟りとは、こちら側の現実にあてはまる答えを得ることではなく、こちら側の現実にあてはまらない妙なことと付き合っていくことが、生きる妙(面白み)だと知ることではないでしょうか。
 鬼海さんの写真を見る時の妙な気持ちよさは、たぶんそのあたりに原因があるのではと思ったりします。